Takahiko Shimizu (Japan)
2020年03月07日
宛名のない手紙
清水 崇彦
ごらん みんな歩いて行く
前を見つめ どこへ行くのだろう
男 女 若者 子供 老人
足早な人 遅い人 けれど 誰も振り返らない
前方から来る人はいない
だから みんな後ろ姿だ
思いおもいに背を向け
押し黙ったまま歩いて行く
去って行く背中に風が舞う
※※※※※※※※
君は書いたことがあるだろうか
受取人のいない手紙を
投函されることのない手紙
誰に宛てたわけでもない
言葉が滲むだけの手紙を
感じることは瞬時に現れる
思うことだって ふと閃く
思念や心象には訳があるものだ
それを掬い取り文字に変える
脈絡や論理などいらない
心や記憶の孤独な反芻
未来への朧げな想い
私はどこから来て どこへ行く
自分はどんな存在なのか
どのように存在するのか
もしかして 誰かの後ろ姿に
そっと呼びかけようというのか
けれど 私の言葉は届くまい
きっと 声だって届きはしない
だから 名宛人は誰もいない
私はただ書く それでいい
つまりは 自分のために書く
自分は自分であり
自分は他者でもある
手紙はいずれ自分自身に還る
※※※※※※※※
私は歩く 私も歩く ひたすら歩く
振り返りはしない
顔を合せる人もいない
行き着く先も霧の中だ だが
立ち止まりはしない 歩き続ける